鹿毛 公

中小企業向け「ビジネス競争力自己診断ツール」の紹介

 ITコーディネーター(以降ITCと略。)は、「経営とITの橋渡し」をミッションとして、IT経営のライフサイクル全般でサービスを提供しています。そのためにITコーディネーター協会(以降、ITCAと略。)では、ITCサービスを支援する各種ガイドやツール等を提供しています。そのなかで、私は長年、中小企業の経営課題の解決指針を案出する「ビジネス競争力自己診断ツール」(以降自己診断ツールと略。)の開発・保守に携わってきましたので、概要を紹介させて頂きます。

 

■IT経営への気づき

ITCAでは、企業のIT経営の企画から導入、運用・保守までの工程を「ITCプロセスガイドライン」(以降PGLと略。)として定義しています。

PGLは大きく分けて、IT経営の必要性を認識する「IT経営認識プロセス」とIT経営を導入する「IT経営実現プロセス」に分かれます。前者は、経営環境の変化や技術革新等により、企業の今までのビジネスモデルや業務プロセスが通用しなくなったとき、危機感や問題意識を経営者や従業員で共有し、変革の方向性を経営者が判断する工程です。一方、後者は、前者のアウトプットを受けて詳細な経営戦略策定から始まってIT経営のための人間系/IT系のプロセスを導入し運用する工程です。自己診断ツールは、経営環境の変化に気づき、自社の強みや弱みから経営課題解決の方向性を合意形成する機能から、IT経営認識プロセスで使用されるツールです。

(図-1 ITCプロセスガイドライン)

■自己診断ツールの考え方と仕組み

(図-2 自己診断ツールの概念)

 図-2は、経営環境の変化が企業に及ぼす影響、左側が経営実績とビジネス競争力の関係、右側が、経営目標とビジネス競争力の関係が示されています。中央は、それぞれのギャップによって発生する問題や課題が示されています。

 ビジネス競争力と言うのは、企業が持っている競争力の源泉となる業務遂行能力です。経営基盤系、IT基盤系、業務プロセス系に分類され、全部で16個定義されています。業務プロセス系は、業種によって異なりますが、それ以外は業種共通です。

 左側の「経営実績→ビジネス競争力」というのは、例えば現在の経営実績である「売上」を実現できるビジネス競争力である「営業力」がある、ということです。一方、右側の「経営目標←ビジネス競争力」というのは、経営目標を実現できる「営業力」が必要、ということです。当然のことながら、経営目標が経営実績より高い値ならば、ビジネス競争力もレベルアップされたビジネス競争力が必要、ということになります。ビジネス競争力の評価尺度は成熟度で行い、レベルアップするということは成熟度を高める、ということです。

 

 以上を前提にして経営課題解決指針の案出方法を説明します。外部の経営環境の変化や経営目標の設定で現在の経営実績と経営目標と間にギャップが生まれ、それが経営課題として認識されます。いろいろな経営課題の中から最も経営目標に影響を与える重要経営課題を数個選びます。数個選ぶのは、中小企業はリソースが不足していて全ての経営課題解決は現実的に無理だからです。そして経営目標を実現するためには、重要経営課題の解決が必須になります。

 一方、会社の中には、現在事業を実施している以上、他社に負けない何らかのノウハウが存在しています。それが現在の経営実績の裏付けとなる「ビジネス競争力の現在の姿」です。それに対して、経営目標を達成するためには、レベルアップされた「めざす姿」のビジネス競争力が必要になります。そのなかで特に重要経営課題解決に大きく影響するビジネス競争力を特定して、それをレベルアップしなければならない、という考え方です。そのレベルアップの施策が「経営課題解決指針」になります。

 整理しますと、①経営目標と経営実績のギャップから、重要経営課題を決定し、②それを解決するために「ビジネス競争力の現在の姿」と「めざす姿」を診断し、③そのなかで重要経営課題の解決に大きく影響を与える「ビジネス競争力の特定」をして、④特定されたビジネス競争力をレベルアップする施策が「経営課題解決指針」になる、いう考え方です。

 

■自己診断ツール適用の流れ

(図-3 自己診断ツール適用の流れ)

 自己診断ツールは、ITC向けドキュメント(ファシリテーションガイド、販促資料等)と作業用ドキュメント(ワークブック、テンプレート等)からなります。自己診断作業は基本的にテンプレートと呼ばれるワークシートに作業結果を記入しながら作業を進めていきます。

 「事前準備」では、ITCが社長と面談して企業の概要や診断対象の範囲等を把握します。ITCは社長の思いや課題を理解しておいて、「自己診断」時のファシリテーションで活用します。

 「自己診断」は、社長、経営幹部、ITC(ファシリテーター)が参加してワークショップ形式で行います。参加者が事前に選択してきた重要経営課題やビジネス競争力の成熟度をITCのファシリテーションのもと、会社として合意形成していきます。重要経営課題の選択から始まって、重要経営課題を解決するビジネス競争力の特定まで完了したらワークショップは完了します。ITCは作業結果を持ち帰って、経営課題解決指針を纏めます。

 「ご説明会」では、ワークショップの結果から案出された経営課題解決の指針を報告します。報告とともに課題解決指針の実現に向けた経営改革プロジェクトの発足やITCの支援策を提案します。訴求ポイントとしては、ITCが作成した指針ではなく企業自らワークショップで検討した内容ですから、経営幹部のやる気への訴求が重要になります。

 

自己診断ツールの機能と効果

 自己診断作業は、ITCからみたとき営業ドアノックツールとしての位置づけもあり無償で適用するケースが多いです。そのために低コスト、高生産性、アウトプット品質が課題になります。

 

①低コストと高生産性

 重要経営課題やビジネス競争力そのものを一からワークショップで議論するとなると莫大な時間が掛かり、販促コストに見合いません。そのために作業のアウトプットは全て「テンプレート」と呼ばれるワークシートに記入して生産性を高めています。「テンプレート」はワークショップ用と報告書用合わせて全部で50種類あります。図-4は、重要経営課題の選択やビジネス競争力の成熟度を判定するテンプレートの一部ですが、選択方式になっています。重要経営課題やビジネス競争力は業種によって異なりますので、このようなコンテンツを持ったテンプレートは業種分用意されています。

 その他テンプレートは、Excelによって作成されていますので、企業側の特性や要望に合わせてフォームやコンテンツを自由にカスタマイズすることが可能です。

 ツールの適用に要する工数は、企業側で約8時間~10時間(社長面談2時間、ワークショップ事前準備2時間、ワークショップ4時間、報告会2時間)です。一方、ITC側は上記以外に報告書の纏める時間として約2~3人日別途必要です。

②アウトプット品質

 報告書や提案書にも、テンプレートが提供されています。アウトプットの品質は、ITCの裁量に依るところ大きいですが、課題の構造化やその表現方法もBSC(バランススコアカード)等を活用して標準化していますので一定水準の品質確保は可能です。企業から発言される業界用語やキーワードをアンケート調査やワークショップで採取できるようにしていますので一般的、表層的でない報告書や提案書を作成することが可能です。

③その他の効果

 一般的にコンサルビジネスの成功要件に、企業経営者(中小企業の場合、特に社長)とコンサルタントとの相性が問題になる場合があります。自己診断ツールをプリセールで使用することで、社長はITCの力量を評価でき、ITCは社長や企業文化に接して、お互い相性等を判断できますのでコンサル契約後の失敗リスクは低減すると言われています。

 

 以上ツールの概略を紹介しましたが、ITCのみならずITベンダー等が会社のドアノックツールとして採用しているところもあります。プロスペクトのように状況が分からない企業と接するとき、網羅的に書かれた重要経営課題やビジネス競争力で糸口を見つけて話を進めている、とのことです。このようなコンテンツは、ITCや中小企業診断士等先輩諸氏の経験やアイデアの賜物ですが、今後のメンテナンスが課題と思っています。