菅谷 宏

会社を見極め、経営承継円滑化法を活用しよう

 世代交代を円滑に進めることを目的として、平成20年に経営承継円滑化法が制定されました。経営承継円滑化法は、①遺留分に関する民法の特例、②事業承継時の金融支援措置、③事業承継に係る税制(下表に示す相続税及び贈与税の納税猶予特例)へと引き継ぐことの3本柱からなります。これを受け、非上場株式等に係る相続税・贈与税の納税猶予制度が平成21年に制定されました。ここでは、平成271月に施行された納税猶予制度の概要と支援の失敗例を述べさせて頂きます。

相続税の納税猶予特例
後継者が納付すべき相続税のうち、相続により取得した非上場株式(相続前から後継者が既に保有していた議決権株式等を含め、発行済議決権株式総数の三分の二に達するまでの部分に限る。)に係る課税価格の80%に対応する額が納税猶予される。
贈与税の納税猶予特例  後継者が納付すべき贈与税のうち、相続により取得した非上場株式(贈与前から後継者が既に保有していた議決権株式等を含め、発行済議決権株式総数の三分の二に達するまでの部分に限る。)に係る課税価格の全額に対応する額が納税猶予される。

世代交代に相続税・贈与税の納税猶予を使用する

 相続税・贈与税の納税猶予制度を活用した自社株承継モデルケース(下図)は、先代経営者→後継者→次の後継者へと3代に亘り、自社株をどのように引き継いでいくかを示したものです。

 生前に自社株を譲る場合は、贈与税の100%納税猶予を活用します。納税猶予ですから、猶予してもらうには事業継続要件(代表者であること、自社株式の保有継続、雇用の8割維持等)を守らなければなりません。先代経営者が亡くなった時点で、贈与税の納税猶予が免除され、相続税の80%納税猶予に切替わります。ここも納税猶予ですから、猶予してもらうには事業継続要件を守らなければなりません。守れなくなるとペナルティが発生します。


 生前に自社株を譲らない場合は、相続税の80%納税猶予から始まります。確認申請(平成25年4月以降任意となる)を出していない場合は、経済産業大臣の認定を受けるため、相続開始後8カ月以内に地方経済産業局へ認定申請をし、10カ月以内に所轄の税務署に相続税を申告する必要があります。実質的に8カ月で会社の承継や相続財産を決着させなければならず、争続となれば本事業承継税制の適用はが難しくなります。

相続税・贈与税の納税猶予特例の認定件数と事業継続要件の緩和

 相続税及び贈与税の納税猶予制度を使いこなせば、中小企業の事業承継が比較的スムーズに進むと思われましたが、事業承継税制に係る経済産業大臣の認定件数は、平成26年3月末で、846件(相続税539件、贈与税307件)に留まりました。(事業承継を中心とする事業活性化に関する検討会中間報告 平成26年7月 中小企業庁)

 経済産業省は、平成25年度税制改正で、事業継続要件を緩和(親族外承継、雇用8割を5年間平均で維持、利子税率を0.9%に下げる、取締役としての残留可 等)して、本制度の活用を推進しています。

贈与税の納税猶予に進めず

 製造部門が国外にある会社が経営承継円滑化法を活用したいということで、著者は事前確認申請(関東経済産業局へ)を支援しました。確認後、後継者を早めに決めたいとの話があり、贈与税の納税猶予の認定申請を進めることになりました。


 認定申請をするには、自社株の株価及び贈与税の納税猶予額を算出する必要があります。 当然、株価には国外にある製造部門の資産も織り込まれます。処が、株価のうち、贈与税の納税猶予に該当するのは、国内にある資産のみが対象だということがわかりました。国外資産に相当する部分の株価には、そのまま贈与税が適用されることになり、認定申請を断念しました。


 事業承継税制は、国内の従業員の雇用を守ることを第一義と考えているようです。グローバルに展開した中小企業では、なかなか使いづらいことがわかりました。

 国内に展開する中小企業が事業承継を考える際は、相続税・贈与税の納税猶予制度の活用を早めに検討しておくのがよさそうです。制度利用前の経済産業大臣への「事前確認」は任意となりましたが、事前の確認を受けておけば、慌てずに認定申請へとステップを進めることができます。会社の特性を見極め、お知合いの経営者に円滑化法の活用を進めてみてはいかが。